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⻄洋わさび ペルオキシダーゼ(HPR)の生産

目的

西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)は臨床検査の2次反応によく用いられる酵素です。検体検査では、血液や尿といった様々な有機物が混在する検体中での正確な測定が必要となるため、臨床検査薬としての酵素は高純度なタンパク質であることが求められます。

現在検査薬で使用されているHRPのほとんどが西洋わさびから製造されていますが、西洋わさびには少なくとも22種類のHRPアイソザイムが存在しており、その含量や組成比が気候や栽培条件により変動するため、製造ロットごとに品質にばらつきが生じやすくなっています。

上記の背景から、組み換え型HRPの生産が試みられてきました。代表的な発現系として、大腸菌Escherichia coli、酵母Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastorisが試されてきましたが、いずれも生産量は低く(E. coli; 0.34 mg/L (Smith et al., 1990), S. cerevisiae; 0.07 mg/L (Morawski et al., 2000), P. pastoris; 1.3 mg/L (Morawski et al., 2001)、実用化に至っていません。

そこで弊社のCHO-Spica細胞を用いて高品質なHRPの生産を目指しました。

HRPの生産

弊社で開発したpCHR096ベクターに、主要なHRPアイソザイムであるHRP-C1A遺伝子を搭載し、CHO-Spica細胞へ導入しました。

薬剤選抜によりHRP遺伝子が染色体へ組み込まれた安定発現株を選抜し、
さらにシングルセルクローニングによりHRPを高生産するクローンを生産株として取得しました。

この生産株をフラスコ内で細胞培養し、培養上清に分泌されたHRPをAKTAシステムによる疎水性相互作用クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製し、単一のアイソザイムから成るHRPを得ました。

生産系の評価

CHO-Spica細胞発現系では、可溶性のHRPを231 mg/Lの生産量で生産できました。
この生産量は、これまで報告された他の宿主発現系よりも高く、CHO-Spica細胞が優れたタンパク質生産系であることを確認できました。

CHO-Spicaによる生産量

CHO-Spica細胞により生産した精製HRPを、SDS-PAGEで泳動したところ、予想よりも大きい分子量を示しました。そこで精製HRPをPNGase F処理したところ、予想されるHRP分子量(33.9 kDa)まで低下しました。このことからN-結合型の複合糖鎖が付加していることが示唆されました。

CHO-Spica細胞により生産した精製HRPは、比活性220 U/mg、精製度の指標となるRZ値(A403/A275)2.7を示しました。これは既存の西洋わさびから製造された製品版のHRPと遜色ない活性となります(参考:他社製品; 180 U/mg, RZ値 3.1)。

CHO-Spica細胞生産系はクローン細胞由来であることから、製造ロットによる品質のばらつきを抑えられ、高品質なHPRの安定供給が期待できると考えられます。